進捗雑記

#-神×薬
「Great Mistake!」 の続編「Another Mistake!!」を書きました。2〜3月くらいに頒布予定の同人誌に書き下ろしとして収録します。
先に1話目冒頭だけ出しておきます。発行が近くなったらサイトにも1話目全部をサンプルとして収録予定です。ちなみに全3話です。
まだ校正前なのでいろいろ変わるかもしれませんが、ひっそり告知がてら…。
>>1677 この「指輪アンジャッシュ」ネタを清書しました。



「おや、可愛らしい耳飾りですね」
 テメノスは向かい合うキャスティの耳たぶに、きらりと光るものを見つけた。
 小さな青い石があしらわれたイヤリングは繊細な細工で、戦闘用でないことがひと目で分かった。彼女は紅茶を飲みながらはにかむ。
「ありがとう。普段はしないから気になった?」
「いえ。あなたの踊子姿はなかなか艶やかでしたよ」
 仕事の邪魔になるから、といつもは化粧も控えめなキャスティだが、旅の間に踊子のライセンスを使用した時はきらめく装飾品で華やかに着飾っていた。正直もう一度くらいあの姿を見たいものだ。
「あれは踊子のギルドマスターが選んだ衣装だもの」
 そう言いつつ、キャスティは嬉しそうに指先でイヤリングをいじる。
「こういう時くらいはアクセサリーをつけたいんだけどね。治療の時に引っ掛けたりなくしたりするといけないから、選ぶのが難しいの」
 フレイムチャーチ大聖堂の客室にて彼女と一対一で向かい合うテメノスは、内心でどきりとした。こういう時――つまり、彼女もこの会合をデートと認識しているのだろうか。
 ソリスティア大陸の東と西を股にかけた一騒動が終わり、テメノスの思いは晴れてキャスティに伝わった。その後、二人はそれなりの頻度で逢瀬を重ねていた。
 とはいえ二人は付き合っているわけではなく、テメノスの懸想をキャスティが認識しただけである。それでも今までの経緯――テメノスがフレイムチャーチで流れる噂を放置して、挙げ句の果てにキャスティに逃げられた――を思うと、相当進展しただろう。
 今回は大聖堂内の客室に彼女を案内した。最近になって規模の大きくなった新生エイル薬師団へ、聖火教会が援助をはじめたこともあって、こういう融通は効きやすい。以前聖堂騎士オルトにその話をしたら「職権乱用だな」と顔をしかめていたが。
 二人きりの時にキャスティがアクセサリーに言及するのは悪くない感触だ。テメノスは浮き立つ気持ちを隠して、ふっと笑う。
「あなたは患者と聞くと、すぐに飛んでいきますから。アクセサリーも置いていかれてしまうのでしょうね」
「あっ……この間はごめんなさい」
 キャスティは椅子の上でしゅんと縮こまった。
 前回の会合では、少し遠出してニューデルスタのオープンカフェを訪れた。だが、楽しくおしゃべりしている最中に「喧嘩だ!」という声が街路に響き渡ったかと思うと、キャスティが即座にすっ飛んでいったのだ。テメノスは慌ててカフェの支払いをしてから追いかける羽目になった。
「こうして埋め合わせもありますから、大丈夫ですよ」
 テメノスは土産にもらった茶葉の袋をひらひら振った。キャスティはほっとしたように胸をなでおろす。むしろ目の前のけが人を優先しないのは彼女ではないだろう、テメノスは考えていた。
 今日の紅茶は彼女がお詫びにと淹れてくれたものだ。その香りを楽しみながら、テメノスは改めて彼女のイヤリングを見つめた。
「それにしても、治療の邪魔にならないアクセサリーですか……戦闘時の装備はいかがですか?」
 ソリスティアでは戦いを補助する装備品として、ピアスやブレスレット、ネックレスが流通している。体力を底上げする、敏捷性を増すといった効果があり、旅の間はよく世話になったものだ。
 キャスティは眉を下げて紅茶をすする。
「ネックレスはやっぱり垂れるのが気になっちゃうわね。それに、制服がこうだとなかなかつけづらくて」
 なるほど、エイル薬師団の服は襟が詰まっている上に、ケープまで羽織っている。ネックレスが映えるのは踊子の服のように首元が大きく開いた衣装だろう。それに、装備品のアクセサリーはデザインがシンプルで、晴れ舞台には物足りないのも確かだ。
 その時、キャスティが身を乗り出した。
「ところであなたはアクセサリーはつけないの?」
「神官の服装には規定がありますから。プライベートまでは規制されませんが、身につける習慣はありませんね」
「そう……きっとあなたなら何でも似合うわ」
 キャスティはほほえんだ。彼女はしばしばテメノスの容姿を過大評価する傾向があったので、笑って受け流す。
 大聖堂という家のようにくつろげる場所で、憎からず思っている女性と穏やかな時間を過ごす。苦労の末に勝ち得た幸福に感謝しながら、テメノスは頭の片隅で考えていた。
 邪魔にならないアクセサリーとは……なんだろう?

こんな感じで始まるとっても呑気なラブコメです。お好きな方にお手にとってもらえたらうれしいです!畳む


発行までに時間があったら、今回出せなかった仲間が出てくる話も書けないかな…!