進捗雑記

#落花 推敲途中の一話目冒頭の文章 ※キャスティ三章ネタバレ
 湿った空気の中、汽笛の鈍い音が響き渡った。
 テメノスは西に向かって出港した定期船の影と、その先の分かつ大海へ暮れていく太陽を目で追う。
 船に乗る者を見送ったのだろう、港にいた家族連れがぞろぞろとニューデルスタの方角に帰っていく。港のそばに設けられた待合室には、テメノスと仲間たちだけが残された。
「キャスティさん、まだ時間かかりそうかな……」
 アグネアは屋根の下から出て、港と反対方向を眺める。待合室といっても屋根と柱だけの東屋【あずまや】であり、四方がよく見えるのだ。
「ご飯つくって待ってた方がいいべか?」
 彼女は先ほどからずっとそわそわして、待合室のベンチと外を往復していた。テメノスは「落ち着いてください」と声をかけ、手の平を下に向ける。
「野宿になるかどうかまだ分かりません。昼間の登山でキャスティも疲れているでしょう。屋根のある場所で休んだ方がいいのでは」
 すると、ベンチの端に座っていたソローネが形の良い足を組み直す。
「ニューデルスタまで行くの? 結構遠いよ。今から行っても宿取れないでしょ」
「そうだ、発明家のおっさんの家に行くのはどうよ。ニューデルスタより近いだろ」ぱちりと指を鳴らしたパルテティオの提案を、
「八人で押しかけるのは無謀だ」
 オズバルドが一蹴する。アグネアはおろおろして仲間たちを見比べた。
 いつキャスティとヒカリが戻ってくるか分からぬ今、とにかく日が落ちる前に方針を立てねば、とテメノスが考えはじめた時。彼の横でベンチに座って足をぶらぶらさせていたオーシュットが、ぴくりと大耳を動かした。
「……帰ってきた!」
 彼女はぱっと地面に降りると、相棒のアカラを従えて待合室の外に駆け出す。残りの五人は一瞬顔を見合わせてから、慌ててその後を追った。
 オレンジ色に照らされた港へ、東の平原からゆっくりと近づいてくる二つの影がある。テメノスは太陽を背にして目を細めた。
 その二人――キャスティとヒカリは何か会話していたが、こちらを見つけると駆け足になった。
「みんな、お待たせ」
 キャスティは仲間たちを安心させるようにほほえむ。
 テメノスは若干の違和感を覚えた。昼にリフィア山を登った時、彼女はもっと切羽詰まった顔をしていた。今はその面影はなく、晴れやかな表情である。
 つまり不安が払拭されるような出来事があったのか、もしくは仲間に心配をかけまいと自分を律しているのか。それを見極めるため、テメノスは黙って観察する。
 彼に注視されていることに気づかず、キャスティはにこやかに続けた。
「今日は一日付き合わせちゃったわね。ヒカリくんも改めてありがとう」
「いや、大したことではない」
 剣士は首を振り、口をつぐむ。皆、キャスティの言葉を待っていた。

こういう感じでぬるっとはじまります。一話目がどうもテンポ悪く感じるんだよなあ、何度も推敲したら気にならなくなるのか…?畳む