進捗雑記

#落花
五回目の推敲やって、一旦完成ということにして校正用のPDFにしました。これで事務ページつくったら試し印刷ができる!週末入稿も夢ではない…!?
今のところ420ページくらいです。まあ最終的に450ページくらいが目標かな…?結局今までの本とそれほど変わらない分量になっている…いや50ページは大きいか?もう感覚がおかしくなってるかも。

校正二周目も途中まで終わってたので反映させましたが、まだ半分くらいは見直せてないなあ。発行までにあと何周できるだろうか…

神官2章の話で、前書いた聖堂騎士視点とは展開が少し違います。一部、ルビを振るために変な記述をしている箇所があります。
 青空を突き抜けて汽笛の音が鳴り響く。
 キャスティの乗る定期船がカナルブラインの港に到着した。彼女がここを訪れるのは、水源汚染事件を解決して以来だ。
 甲板に立ち、潮風になびく髪を耳にかける。下船の準備をする船員たちを眺めていると、ヒールの音とともに誰かが隣に並んだ。
「いいね。なかなか綺麗な町じゃん」
「ウマいもんあるかな?」
 盗賊ソローネが短い黒髪をかき上げ、狩人オーシュットがぴくぴく大耳を動かす。
 さらに、商人パルテティオが白い帽子を押さえて船べりから身を乗り出した。
「ここも久々だなあ。旦那は来たことあんのか?」
「港は使った覚えがある」
 返事したのは古いローブをまとった学者オズバルドだ。その向こうで花のようなスカートが揺れる。
「ここって有名な踊子さんがいるんだよねっ。今回は公演見られるかなあ」
「俺も一度見てみたいな」
 踊子アグネアが目を輝かせ、剣士ヒカリが腕組みしてうなずいた。
 仲間たちの会話を漏れ聞いたキャスティはくすりと笑う。最初は一人きりで旅立ったのに、気づけばこんなにも連れが増えていた。
 キャスティの記憶のはじまりは、ちょうど今いるのと同じ甲板の上だ。ソリスティアの東大陸から西大陸へ向かう定期船で目覚めた時、彼女は過去の記憶をすべて失っていた。どういうわけか小舟に乗って分かつ海を漂流していた彼女を、定期船が拾ってくれたらしい。
 彼女は己が薬師だったことを思い出し、たどり着いたカナルブラインではその腕前を頼りに水源汚染事件に取り組んだ。解決後、鞄にあった医療日誌の記述から「東と西にある二つの町が記憶の手がかりになりそうだ」と見当をつけて旅に出た。
(……まだどっちの町にも行ってないんだけどね)
 キャスティはほほえみ、甲板にいる生業も年齢も違う仲間たちを眺める。こうして大陸をほとんど一周した挙げ句カナルブラインに戻ってきたのは、仲間の存在があったからだ。
 カナルブラインを出発したキャスティは、隣のヒノエウマ地方にあるサイの街を目指して道なりに進んでいった。だがその途中、リューの宿場で出会ったヒカリに「サイの街に行くなら違う道だ」と言われた。引き返すかどうか迷った時、国を追われたヒカリの事情を聞き、彼の目的を優先しようと考えた。自分の記憶喪失は急ぎの問題ではないから、と。
 それから北に向かってパルテティオやアグネアと邂逅【かいこう】し、今度はトト・ハハ島に渡ってオーシュットと知り合った。さらにニューデルスタ港から東大陸を踏破した結果、ソローネ、テメノス、オズバルドが仲間になった。
 連れが八人もいれば旅の目的は様々だ。よって彼女たちは、目下のところ一番予定の差し迫っていた用事をこなすことにした。
「あ、降りられるみたいだぜ」「行こ行こ!」
 仲間たちが指さす先で、定期船からカナルブラインの波止場にタラップが接続された。人々は列をつくって港に降り立った。
 揺れない地面をしっかり踏んだキャスティは、人と物であふれるにぎやかな港を見回す。
(マレーヤはまだいるのかしら……?)
 前回の訪問時、キャスティはこの町で自分以外の薬師と出会った。そのマレーヤはどうやら記憶を失う前のキャスティを知っているらしく、医療日誌とは別の情報源になりうる人物だった。この間はくわしい話を聞く前に別れてしまったので、キャスティは各地でマレーヤの目撃証言を集めている。が、今のところめぼしい情報はなかった。
 かぶりを振った彼女は、この都市を訪れた目的を思い出す。
「ねえテメノス、調査にはすぐ入るつもり?」
 キャスティは最後に船を降りた仲間に話しかけた。
 しかし神官テメノスは答えず、怜悧な緑の瞳を町並みに向ける。聖火教の法衣をまとった彼は教会のシンボルをかたどった長い杖を持っており、なかなか目立つ容姿をしていた。
 テメノスと出会ったのは東大陸のフレイムチャーチ村だ。暴徒に襲われていた彼をキャスティが助けたところ、あちらから誘いをかけてきて、旅の連れとなった。
 彼は一度考えに集中すると、まわりの声が届かなくなるらしい。キャスティもそういう性質にはだんだん慣れてきたが、あの調子で人通りの多い港を歩けるのだろうか。
「調査? 宿に荷物置いた後でいいんじゃないの」
 すでに慣れた様子のソローネが肩をすくめた。「宿の交渉は任せてくれよ」とパルテティオが指を鳴らす。
「テメノス……」
 キャスティが再度声をかけると、彼は我に返ったように瞬きした。
「失礼しました。先に宿ですね」
 そのまますたすた歩きはじめる。「聞いてたんだべ……?」とアグネアが目を丸くし、キャスティは苦笑して後を追った。
原作を見る限り初期からテメノスの好感度高かったよねーと思ってましたが、キャスティ視点だとあまり伝わってないし最初はぎこちない関係なのかも…?畳む